*****The Following content is available in Japanese only.*****
金沢大学ナノ生命科学研究所(WPI-NanoLSI)/新学術創成研究機構の柴田幹大教授、ナノ生命科学研究所(WPI-NanoLSI)の炭竈享司特任助教(研究当時)らの研究グループは、国立健康危機管理研究機構(JIHS) 国立国際医療研究所 ウイルス構造機能研究部の町田晋一テニュアトラック部長、田中大貴上級研究員、北海道大学の前仲勝実教授、フランス国立科学センター(CNRS)の Christine Neuveut 博士、熊本大学の三隅将吾教授、国立国際医療研究センター(※現:国立国府台医療センター)の溝上雅史プロジェクト長、愛媛大学の竹田浩之准教授らとの国際共同研究により、B 型肝炎ウイルス(※1)の持続感染に必要な HBx (※2)複合体を、クライオ電子顕微鏡(※3)および高速原子間力顕微鏡(HS-AFM)によって解析し、複合体の立体構造および分子動態を世界で初めて明らかにしました。本研究成果は、HBx が宿主タンパク質と協調的に相互作用する様子を可視化し、B 型肝炎ウイルスが宿主エピゲノム(※4)をどのように操作しているかという根本的な問いへの理解を深め、B 型慢性肝炎に対する新たな治療戦略の基盤となることが期待されます。
柴田教授および炭竈特任助教は、本研究において、特に高速原子間顕微鏡による HBx–DDB1 複合体全体の構造動態の解析に貢献しました。
本研究成果は、2025 年 6 月 9 日(米国東部時間)に国際学術誌 『Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America (PNAS)』に掲載されました。
図:本研究概要図
【Glossary】
※1:B 型肝炎ウイルス(HBV)
急性または慢性の肝炎を引き起こすウイルス。感染が持続すると、肝硬変や肝がんへと進展する可能性があります。
※ 2: HBx
HBV がコードするウイルスタンパク質で、ウイルスの持続感染および肝発がんに深く関与することが知られています。特に、cccDNA の安定性およびその遺伝子発現の亢進に重要な働きを担っており、HBV の持続感染の根治療法開発の有効な標的と考えられています。
※3:クライオ電子顕微鏡
タンパク質などの試料を非結晶の氷(アモルファスアイス)中に閉じ込め、極低温下で電子線を照射して高解像度の画像を取得する装置です。得られた画像をコンピューターによる画像処理技術により計算することで、試料の立体構造を原子レベルの精度で再構築することが可能です。
※4:高速原子間力顕微鏡(HS-AFM)
原試料表面の構造をナノスケールで観察するための装置です。カンチレバー(非常に細い探針)を用いて、タンパク質の分子表面の凹凸をなぞるように測定し、その構造や動態をリアルタイムで可視化?解析することが可能です。
※5:エピゲノム
DNA 塩基配列を変えることなく、遺伝子の発現を調節する後天的な化学修飾などの総称です。代表的なものとして、DNA のメチル化やヒストン修飾などが知られています。HBV 感染細胞の核内の cccDNA は、エピゲノムを保持することで、その遺伝子発現が調節されています。特に、HBx は cccDNAに形成された抑制的なエピゲノム状態を活性型に変化させることで、ウイルス遺伝子の発現を亢進し、ウイルス複製を促進します。
Journal: Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America (PNAS)
Researcher's Information: Mikihiro Shibata