第6回超然文学賞 結果発表?講評

受賞者が決定しました!おめでとうございます!

令和5(2023)年7月3日(月)から8月21日(月)の期間に募集しました「第6回超然文学賞」に御応募いただき,ありがとうございました。各部門の応募作品の中から,審査員による厳正な審査の結果,下記のとおり受賞者を決定しましたので,お知らせします。

 

小説部門

? 氏名  作品名  所属学校?学年
最優秀賞 青野 有佳 あかは、女の 金沢大学附属高等学校       3年
優秀賞 大野 裕輝 一人ぼっちの悪魔 西武学園文理高等学校       3年
優秀賞 竹俣 美奈 手をのばした先に 星稜高等学校           3年
佳作 辻  日菜子 高嶺と花 静岡学園高等学校         3年
佳作 デルガード 直輝 アルフレド 裕子のレッスン 愛知県立熱田高等学校       2年
佳作 井上 慶太 去りゆく季節 東大寺学園高等学校        2年

短歌部門

? 氏名  作品名  所属学校?学年
最優秀賞 波木 琉香 ややあって 星稜高等学校           3年
優秀賞 水野 結雅 母だった人? 母になる人 愛媛県立今治西高等学校 伯方分校 1年
優秀賞 小島 しずく 漁火通信 長崎県立鳴滝高等学校 通信制   4年
佳作 昆野 永遠 紙粘土を貫く 宮城県気仙沼高等学校       2年
佳作 鈴木 伊都香 羽化と緑 筑波大学附属高等学校       3年
佳作 ?田 乙葉 観覧車 石川県立金沢錦丘高等学校     3年
?
※優秀賞および佳作の記載順は学校が所在する都道府県コード番号順

講評

総評:器に何を盛り込むか

金沢大学人間社会研究域人文学系教授 杉山欣也

 第6回超然文学賞は、以上のように受賞作が決まりました。小説部門三十作、短歌部門二十作品の応募がありました。今回も学内審査委員はすべての作品を、執筆者の氏名、性別、学校名などをすべて隠した状態で読み、審査会に臨みました。あとでお名前を確認したところ、私の気付いた限りではお二人の方が二度目の応募をしてくれました。以前の結果に満足せず、あるいは挫けることなく、再びトライしてくれたことをとてもうれしく、また頼もしく感じています。

 今回の小説部門最優秀賞?青野由佳さんもそのおひとりです。第5回超然文学賞の応募作品「彼女は」は佳作だったため『受賞作品集』への掲載は叶いませんでしたが、近年問題になっているAIやアンドロイドといった存在と生身の人間がどう向き合っていくかというテーマを、「文芸部」という高校生にとって身近なシチュエーションに落とし込んで物語化していく手腕は見事でした。私にはラストシーンの設定に無理があるように感じられましたが、一年経った今でも「あの作品は良かった」とおっしゃる先生がいるくらいですから、よい作品であったことは間違いありません。
 今回の最優秀賞受賞作「あかは、女の」は、いま盛んに議論されているルッキズム等の問題をじっくり考えた上で、今度は「美術部」や「修学旅行」という高校生に身近なシチュエーションに落とし込んでいます。社会的な課題を踏まえて自分の考えたことを物語として提示する、それはこの超然文学賞の「趣旨」にもよく合致しています。生硬な出来では受賞には至らなかったでしょうが、練られた物語と巧みな文体でそれを有機的に統一しています。
 物語を器に見立てると、描かれるテーマや内容が食材ということになります。小さなどんぶりに無理やり大量の食材をぶち込んだ料理は食べづらいものです。「あかは、女の」はまだ規定枚数に対してちょっとエピソードが多い気もしますが、これくらいの技量の持ち主になるとこの規定枚数では窮屈なのかもしれません。
 規定枚数といえば、字数をオーバーしている作品がいくつかありましたが、すべて選外となりました。それらを読むと、テーマやストーリーに比して規定枚数が足りなかったのだろうと想像がつきます。スケールの大きなテーマやストーリーに取り組むのは悪いことではありませんが、それを認めてしまえば、入試に関わる文学賞として公平性を損なうことになります。推敲して、制限字数に収める努力をしてほしかった。とても残念に思いました。
 今回から新たに外部審査委員として里見蘭先生が着任されました。審査委員の交代は受賞作の傾向を変えることにもなります。優秀賞のうち「手をのばした先に」が本賞の従来の傾向をより洗練させたものとするならば、「一人ぼっちの悪魔」は新傾向のものと言えるでしょう。里見先生は本学の授業「文芸創作実践」にもご登壇いただいており、ご本人のX(旧ツイッター)にその講義録を掲載しておられます。参考になさると、創作がはかどると思います。

 短歌部門は最優秀賞と優秀賞の二作品とで三つ巴の接戦でした。そのなかで波木琉香さんの「ややあって」が最優秀に選ばれたのは、他の二作品と比べたときに自由闊達さが感じられたためだと私は認識しています。ひょっとすると韻文の技術的水準は「母だった人?母になる人」の方がやや上かもしれませんし、作中主体の置かれた環境に即した誠実な詠みぶりという点では「漁火通信」の方が上かもしれません。しかしながら「ややあって」は、たとえば一首目、あるいは後半の数首がそうであるように、自分自身の発想をポジティブに伝えてきます。そのことが審査委員各位の心を捉えたのだと思います。
 短歌はどうしても三十一文字という限られた文字数でどう「私」を表現するか、と考えがちです。つまり定型を制約と捉えがちです。そのような中で「ややあって」は三十一文字を窮屈な器とは捉えていない。むしろその特質を生かして「私」という具材のよさを引き出す上手い盛り込み方をしている。いわゆる「映える」一皿になっていると感じました。

 先日、超然特別入試で本学に進学した学生を対象に、現在の創作活動についてアンケートを取ってみました。彼らはサークルを結成し、雑誌『北辰』を創刊しました。『北辰』とは金沢大学の前身校の一つである旧制第四高等学校で刊行されていた雑誌の名前です。
 アンケートでも、ほとんど全員が何らかの形で創作活動を続けていることがわかりました。なかには有名な短歌誌で賞を獲得し、本学人文学類のWebサイトに学類を紹介する短歌を掲載する人がいたり、金沢市の文学賞に応募して受賞したりと目を引く活躍をしている人もいました。それらのすべてが私にはうれしい回答でした。
 しかし私がいちばんうれしく感じた回答は次のようなものでした。
 曰く、自分はとにかく物語を書くことが大好きだけれども、なにをそこに盛り込むかというところに悩みがあった。そこで大学での研究を通して知った社会的課題を、物語化によって自分なりの解決を図りたいと考えた、すでに六十編以上の小説を書き上げ、SNS等で発信しているとのことでした。
 ここまで用いてきた比喩を三度用いれば、おいしい食材と素敵な器のマッチングが作品を生み出す原動力となり得る、ということでしょう。大学での学びがその素材に選ばれていることは、超然特別入試の意義の一端を明らかにしてくれます。つまり、社会課題の解決に向けて文学には果たし得る役割があるということです。こんな先輩の活動が創作を志す高校生の皆さんの参考になれば幸いです。

 

小説部門 講評  審査委員:小説家 里見蘭

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短歌部門 講評  審査委員:歌人 黒瀬珂瀾

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表彰式

日時:令和5(2023)年10月21日(土)14:00~15:30

会場:金沢市内 

当日の様子はこちら

「超然特別入試」超然文学選抜

令和6年度入試出願期間:令和5(2023)年11月1日(水)~8日(水)

入学者選抜要項?募集要項等詳細はこちら

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